Product Information
SAP S/4HANAにおける製品原価管理の仕組みとは?
管理会計は、企業が目標達成に向けて進む上で、経営者の意思決定を助ける重要な機能を果たしています。組立製造業のみならずプロセス製造業も含めた数多くの企業様においては、製品原価管理の重要性は非常に高く、その結果は財務諸表の作成など様々な用途に適用されます。更には、詳細なコスト把握に伴う適切な対策を講じることにより、企業の競争力を高めることにも寄与します。
SAP S/4HANAにおける製品原価管理は、リアルタイムのデータ分析と迅速な意思決定を可能にし、経営者が抱えるコスト削減の達成、生産効率の向上、在庫管理の最適化等、重要な目標に対処することができます。これにより、企業の競争力が向上し、組織全体の目標達成に貢献します。
本ブログでは、SAP S/4HANAの製品原価管理についてご紹介します。この記事は、以下のような方にお勧めです。
- 既にSAP ERP(ECC)をご利用中で、SAP S/4HANAへの切り替えを検討されている方
- ERPシステムの導入を検討中で、SAPの製品原価管理の仕組みを知りたい方
- 他社製品との比較にあたり、SAPの製品原価管理の特長を抑えたい方
SAPの製品原価管理の特長は、以下の3点です。
- 標準原価を基にした月中でのリアルタイムな原価集計・見える化の実現
- 製品原価管理の原価構成情報と連動した損益管理の実現
- ころがし計算による品目別月次総平均計算に標準機能で対応
1. 標準原価を基にした月中でのリアルタイムな原価集計・見える化の実現
SAPシステムでは、原材料や部品などに対して標準原価を設定し、各工程の受け払い情報からリアルタイムに原価を集計します。月次で投入実績や生産実績を集計してから原価計算を行うのではなく、標準原価をベースとして月中から実績原価を捉えることが出来る仕組みになっています。
これにより、早期の原価差額の把握および原因分析を実現し、適切なタイミングでの原価低減活動を促進します。
2. 製品原価管理の原価構成情報と連動した損益管理の実現
3. ころがし計算による総平均法の計算に標準機能で対応
標準機能にて、月末や四半期末、ないし年次処理において、ころがし計算(実際原価計算)を実行することが可能です。
標準原価に対する原材料の購入価格差異や、棚卸差異といった品目に関連する差異を自動集計のうえ、総平均単価の計算を行い、品目ごとの払出数量を基準に、月末在庫数量見合いで原価差額の自動按分を行います。払出見合いの原価差額は、半製品(中間品)、最終製品といった上位構成へと自動でロールアップされます。
原価差異は、一般的には簡便法により全額を売上原価に付加、あるいは売上原価と棚卸資産へまとめて按分する仕訳を起票することになると思いますが、SAPの実際原価計算機能では、後者の按分仕訳を品目別に自動で計算・記帳することが可能となっています。また、外部開示向けの売上原価や棚卸資産の調整仕訳も自動で転記可能です。
以降は、SAP S/4HANAの原価管理の一般的な手続きである、標準原価設定、月中のリアルタイム原価管理、月次処理といった時系列の流れに沿ってご説明します。
1. 標準原価設定
また、昨今の外部環境の変化を鑑み、輸送費や光熱費の価格変動や原材料の価格高騰に伴う製品原価へのインパクトを測りたいというニーズも多いと思います。これに対しては、機械学習の活用等を含めたより柔軟なシミュレーションや予測が可能なSAP Analytics Cloudにて、Integrated Financial Planning (IFP)という統合財務計画テンプレートをご提供しております。詳しくはこちらをご参照ください。IFPにより、光熱費、輸送費、原料費の高騰等を加味した製品原価のシミュレーションを柔軟に行うことができ、将来の原材料価格の変動を機械学習によって予測することもできます。また、これらのシミュレーションと販売計画とを組み合わせて、売上原価の計画値の算出や粗利へのインパクトを分析するためのレポート作成等の可視化にも優れています。ERPが堅牢であるが故、製造原価の変動シミュレーションを行う場合、マスタやパラメータを調整し、原価積上処理を実行するなど厳密さが求められる側面もありますが、SACにてそれを補い、最新のテクノロジーを使った分析やシミュレーションの高度化が可能です。
2. 月中のリアルタイム原価管理
月中には、あらかじめ設定した標準原価を使用した原価集計が行われます。
直接材料費や直接労務費は、品目の受払情報や工程での作業時間等の情報を基に、品目別の標準原価や労務費の予定賃率(標準賃率)を使用してそれぞれリアルタイムで集計され、実績としての原価情報を把握することが出来ます。月中は、いつでも下記のような製品別/指図別の原価差異分析レポートを参照することが可能です。
また、売上計上が行われていなくても、受注を受けた段階で、標準原価ベースの粗利(受注に基づく仮売上 – 標準原価)を捉えることも可能です。着地見込用の元帳と実績の元帳を双方管理することができ、今の受注をベースとした売上計上見込や各種利益見込を簡単に確認できます。
着地見込分析目的での、販売システムのデータダウンロードや加工・合算といった手間を省くことができます。
また、下記の財務諸表照会画面にて売上原価の内訳も確認可能です。この内訳は、標準原価見積で計算された値が利用されます。数字をクリックすると、明細一覧に遷移することができ、それぞれの仕訳を確認したり、仕訳に紐づく発生源の受注伝票を確認したりできます。
このように、月中から標準原価を元に原価を集計・把握することで、以下の様なメリットがあります。
- 販売視点:月末を待たずに、粗利の情報をリアルタイムに把握することができる
- 原価管理視点:原価差異の早期把握、ならびに原価低減活動の早期検討・実行ができる
3. 月次処理
月中では、標準原価や予定賃率をベースにした原価を把握しますが、月末には、当月の実際製造費用を踏まえた品目別総平均単価の計算、原価差異の按分処理、ならびに会計仕訳の自動記帳を行います。SAP S/4HANAでは、実際原価計算(ころがし計算)の機能も、標準機能として提供しています。
特に、製造工程の長い製品を生産する場合など、多段階のころがし計算をマニュアルで実行すると、作業量が膨大になり、担当者を悩ませる業務になりかねません。この様なころがし計算を標準機能で自動実行し、会計仕訳の記帳まで行うことができるのは、SAP S/4HANAでの原価管理のメリットの一つです。
ここまで、SAPの製品原価管理について、その仕組みや活用メリットをご紹介しました。ポイントは下記3点です。
- 標準原価を基にした月中でのリアルタイムな原価集計・見える化の実現
- 製品原価管理の原価構成情報と連動した損益管理の実現
- ころがし計算による品目別月次総平均計算に標準機能で対応
SAPの原価管理では、ERPの強みを活かし、他のコンポーネントと連携した管理会計・製品原価管理の仕組みをご提供しています。また、SAP Analytics Cloudと連携し、機械学習を用いたシミュレーションや計画管理とあわせて、お使いいただける様になっています。原価管理や管理会計のご業務に携わっているご担当者様へ、SAPソリューション検討のご参考になれば幸いです。