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SAP Analytics Cloud財務会計ビジネスコンテンツへのカスタマ固有データの反映
はじめに
このブログポストではSAP Analytics Cloudの「財務会計」業務ビジネスコンテンツ”Finance”に対して、S/4 HANA上のカスタマ固有会計データをインポートしてレポート結果を確認するための作業手順を紹介します。特に、各種財務KPIを算定するために必要となる[勘定科目]ディメンジョンについて調整を行う点についても解説します。
*SAP Analytics CloudのビジネスコンテンツとはSAPが作成した業務および業種別コンテンツで、モデル、ストーリー、SAP Digital Boardroom、アナリティクアプリケーション、Smart Predict シナリオ、サンプルデータなどから構成されています。特にサンプルデータを含んだビジネスコンテンツは、そのインストール後からすぐにレポート結果を確認することが可能です。
SAP Analytics Cloudのビジネスコンテンツ自体の情報については下記リンクをご覧ください。
- ビジネスコンテンツ全体概要 – SAP Analytics Cloud: Business Content
- ビジネスコンテンツインストール手順 – Importing from the Content Network(Helpドキュメント)
- ビジネスコンテンツ仕様概要 – Content Package User Guide(Helpドキュメント)
*ビジネスコンテンツはサンプル利用/テンプレート利用を想定しており、そのまま本稼働オブジェクトとして流用することは推奨していません。
ビジネスコンテンツへのカスタマ固有データの反映
‘Finance’ビジネスコンテンツ詳細確認
対象となるビジネスコンテンツの技術的な側面を確認しておきます。
- ストーリー、モデル、ディメンジョンについて
まずストーリーが2つあり、ここにカスタマ固有データを反映してレポーティングするイメージになります。(下図①および②)
カスタマ固有の会計データを保持する為のモデルが1つあり(下図③)、ここに最も重要な項目となる[勘定科目]ディメンジョンであるSAP_FI_GEN_GLACCOUNT(GL Account)が含まれています。
*キャッシュフローおよび買掛金データを保持するモデルも存在しますが、それらは[勘定科目]ディメンジョンを含まないので当Blogでは説明を割愛します。
- サンプルデータについて
[勘定科目]ディメンジョンおよびサンプルデータはSAP標準データの勘定コード表’INT’ベースで作成されています。
-> The Financial Model in SAP Analytics Cloud is built based on the sample Chart of Accounts (INT).
この’INT’の代わりにカスタマ固有の勘定コード表/勘定科目/財務諸表バージョンを反映することになります。
作業手順
以下の手順でカスタマ固有会計データをビジネスコンテンツに反映します。
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データ(ファクトおよびディメンジョン)抽出
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[勘定科目]ディメンジョンのためのデータ抽出と調整
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その他データ(ファクトおよびディメンジョン)の調整
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モデルへのデータインポート
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ストーリー調整
では各手順を確認していきます。
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データ(ファクトおよびディメンジョン)抽出
カスタマ環境のS/4 HANAシステムからカスタマ固有データを抽出します。
- ファクト: CDSクエリ: 2CCFIGLLITMQ0001(仕訳アナライザ)を使用してデータ抽出します。
*インポート接続未利用時は、Analysis Office for ExcelでローカルExcelファイルに抽出結果を保存しておくイメージです。
- ディメンション: 必要な各種マスタデータを抽出します。(抽出手法はCDS viewやデータブラウザなどから)
(例)会社コード -> CDS view: I_CompanyCode/テーブル: T001、利益センタ -> CDS view: I_ProfitCenter/テーブル: CEPC/CEPCTなど
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[勘定科目]ディメンジョンのためのデータ抽出と調整
ディメンジョン: SAP_FI_GEN_GLACCOUNTはカスタマ固有会計データをビジネスコンテンツに反映するための最重要項目で、その内容をこのステップで定義します。
[勘定科目]ディメンジョンに関する記述 – Helpドキュメントからの抜粋
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データ抽出
ディメンションメンバを定義する為にカスタマ固有の勘定科目データを抽出します。抽出元は基本的にCDS view: I_GLACCOUNT(General Ledger Account)あるいはテーブル: SKA1(G/L 勘定マスタ (勘定コード表))といったオブジェクトになります。また、ディメンジョン階層を定義する為に『財務諸表バージョン』のデータを参照します。トランザクションコード: OB58_SM30(財務諸表バージョン更新)から参照するのが一般的な方法になります。
*カスタマ固有要件に合致するならば参照元は上記情報以外のオブジェクトでも構いません。管理会計用の勘定科目階層などが別途用意されているのであれば、それがディメンジョン階層定義に適している可能性があります。
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メンバ調整
抽出・参照結果データを元に少なくとも下記項目を定義します。
項目 | 内容 | 備考 |
メンバID | 勘定科目コード | |
説明 | 勘定科目テキスト | |
Hierarchy | 財務諸表バージョンの階層ノードを参考に”上位ノード”を設定 | |
例外集計タイプ | 残高表示が必要なB/S科目には’LAST'(最終値)を設定 | SKA1-XBILK(フラグ: 貸借対照表勘定)=’X’ |
実際には勘定科目の行数と階層ノードの行数、KPI算定式メンバの行数を合わせた数百行、科目数が多い場合には千行超えるような勘定科目メンバからなる一覧が出来上がることになります。
下図はカスタマ固有階層’CUST’をメンバ追加し[勘定科目]ディメンジョンに反映した場合のサンプルです。
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算定式メンバの調整
ビジネスコンテンツでは各種KPI数値を算定する『式』についても’INT’ベースになっているので、これにカスタマ固有要素を反映する必要があります。KPIに応じて’INT’勘定科目とカスタマ固有勘定科目とのマッピングも確認し『式』に反映します。
なお、’INT’ベースのKPI算定式は、あくまでも一般的なものですので、カスタマ固有のKPI算定式を元に『式』定義自体を修正することもご検討ください。
下図はカスタマ固有階層’CUST’内の「売上」ノード’40’をビジネスコンテンツのメンバF0: Gross Revenue(総売上)内の『式』に追加したサンプルです。
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その他データ(ファクトおよびディメンジョン)の調整
[勘定科目]以外についてもデータ調整していきます。ディメンジョンは基本的にローカルファイル上で作業することになります。ファクトについてはローカルファイル上で調整するか、インポート接続時にはマッピング定義で各種調整を行います。
- ディメンション: [勘定科目]ディメンジョンと同様に項目「メンバID」,「説明」を設定し、さらに必要な属性項目があれば、それらを設定します。
(例)会社コード -> 通貨,国など、利益センタ -> 階層,セグメントなど
- ファクト: 2つの留意事項があります。
- バージョンの設定: ファクトデータとして何らかのバージョン設定が必須です。通常、カスタマ固有会計データを反映するのであればバージョンの’Actual’を設定することになります。
- SAP標準データ利用における貸方マイナスの考慮: 負債/資本および収益に関わるデータは基本的にマイナス値で金額を保持していますので、適宜”×-1”してKPI結果数値が正しくなるように調整してください。
*インポート接続時の対応例: 「貸借フラグ=貸方の場合”×-1“」する計算列を追加し、これをメジャーにマッピング
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モデルへのデータインポート
手順3.までに用意したディメンジョンおよびファクトデータをモデル: SAP__FI_GEN_IM_GENERALLEDGERに対して反映します。
- [勘定科目]ディメンジョン(SAP_FI_GEN_GLACCOUNT): 手順で作成したExcelファイルから全メンバをまとめてコピー&ペーストするのがお奨めです。データ管理の「データのインポート」でファイルインポートすると不整合エラーとなってしまうためです。(Ver.2020.23.0時点)*不整合エラーにより保存もUndoも出来ないような場合には、コンテンツネットワークから[勘定科目]ディメンジョンのみのインストールで再初期化する方法(Helpドキュメント(コンテンツネットワークからのインポート))もお試しください。
- それ以外の各種ディメンジョンおよびファクトデータ: データ管理の「データのインポート」でインポートしてください。
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ストーリー調整
手順4.までの作業で一部のチャートはカスタマ固有会計データによるKPI数値が自動的にストーリー上に反映されていますが、自動的に反映されないオブジェクトについて更なる調整を実施します。
主に入力コントロール、計算メジャー、制限メジャー、フィルタなどに対する調整が必要になります。
- フィルタ: カスタマ固有のマスタ値の反映
- 入力コントロール: カスタマ固有のマスタ値の反映
- 計算メジャー: カスタマ固有のKPI算定式や勘定科目の反映
- 制限メジャー: カスタマ固有データに基づくバージョンやTimeの反映 など
例: 入力コントロールの調整: Business Areaの表示メンバを
サンプル値からカスタマ固有値に調整
上記一連の手順でストーリーにカスタマ固有会計データによる財務KPI数値が反映されます。
その他留意事項
- 通貨換算について
財務会計ビジネスコンテンツ”Finance”の多くのチャートは複数会社コードの単純合算値を表示しています。多通貨/複数会社構成ソースシステムにもかかわらず取引通貨額や会社コード通貨額しか保持していない場合には、通貨換算によるグローバル通貨額表示を検討することになるものと考えます。(Helpドキュメント(通貨))
まとめ
ビジネスコンテンツオリジナルの各種オブジェクトとサンプルデータをどのように扱うのかはカスタマのご要望などに応じてご検討下さい。
- ビジネスコンテンツのオブジェクト
- モデルやストーリーはビジネスコンテンツをそのまま使用するのか?コピーするのか?の検討が必要になる筈です。モデルについては、項目追加要件などが無い限り基本的にそのまま使用するということで良いと考えます。一方、ストーリーについてはサンプルデータによるレポートが継続利用可能なようにオリジナルのものは温存し、コピーしたストーリーに対して調整を実施するといった対応方法が望ましいのではないでしょうか。
- カスタマ固有データとサンプルデータの混在対応
- 双方のデータが単純合算されないように工夫する必要があります。対応例として、カスタマ固有データはファクトデータ調整時にサンプルデータとは年度をずらして単純合算回避する、といった対応方法が考えられます。あるいはサンプルデータ自体を削除してしまうことで混在を防ぐという対応方法もあり得ます。(なお、削除してしまっても後からサンプルデータをモデルに再度インポートすることも可能です。これらコンテンツオブジェクトのインストールオプションについてはHelpドキュメント(コンテンツネットワークからのインポート)もご確認ください。)
ビジネスコンテンツについては単純にカスタマ固有データをインポートすれば直ぐにでもレポート結果が見えるようなイメージを持たれているお客様やパートナ様もおいでではないかと推察しますが、それなりの準備が必要になるのは上述のとおりです。
とは言え、財務会計ビジネスコンテンツには汎用性の高いKPIと多様なチャートを含んでおり、追加料金なしで利用できる標準レポートを活用しないのは宝の持ち腐れとも言えます。
サンプル利用/テンプレート利用を想定したビジネスコンテンツではありますが、カスタマ固有データに基づく各種KPI数値を比較的簡易にご覧になり実装後のイメージを具体的なものとしていただくことで、より効率的で高度なSAP Analytics Cloudご利用につなげる一助となれば幸いです。
個人的には勘定ディメンションの勘定タイプで負債/資本および収益に関わる勘定を定義するほうがスマートだと思うのですが、いかがでしょうか?
コメントありがとうございます。
仰るとおりマスタ基準でロジック構成できるのがベストだと思います。一般的な財務会計業務として勘定科目の勘定タイプ(資産/負債/資本/収益/費用)は必ず定義付けますので、SAP Analytics Cloud独自に『勘定タイプ』をディメンジョンに定義し、これをベースに貸方マイナスロジック構築する形ですね。
なお、SAP S/4 HANAにおけるSAP標準「勘定タイプ」の"ドメイン値"ですが、負債/資本/収益で分類されていません。(項目としてはABAP上はデータエレメント/ドメイン: GLACCOUNT_TYPEが該当するかと思いますが、下記が標準ドメイン値です)
従ってシステム的にはSAP S/4 HANAと連携させるのではなく、SAP Analytics Cloud独自に『勘定タイプ』を定義する形が前提になると考えています。